稀風社ブログ

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稀風社は鈴木ちはね(id:suzuchiu)と三上春海(id:kamiharu)の同人誌発行所です。問い合わせはkifusha☆gmail.com(☆→@)へ。

稀風社の2023秋(仮)

 ネットプリント「稀風社の2023秋(仮)」WEB版を公開いたします。
 鈴木ちはねと三上春海の短歌連作(新作)を掲載しています。
 (記事後半には同じ連作を横書きテキスト形式で再掲しています)


『稀風社の2023秋(仮)』1ページ目



『稀風社の2023秋(仮)』2ページ目




失われた時を求めて  鈴木ちはね



片頭痛は年をとればおさまっていくのだという 医者はいつも言う

名前だけ知っている大学を見る 耐震補強のひし形模様

たましいのありかを尋ねられたとき スポンジボブ どうすればいいだろう

一瞬のきらめきとして川を見て仕事ですこし遠くまで行く

藤浪のアスレチックスのユニフォームはほんとうによく似合っていたと思う

紙切れになったとしてもそれはそれでかわいいと思える日本円

飛行機の傾き加減できらきらと東京湾にいくつかの船

バックホー ファーストネームは親がつけたあだ名のようなもの ここにいる

街路樹の枝葉の先が揺れている 世界がもし100人の村だったら

あじさいの花が花のまましおれている 失われた時を求めて

銀行の支店も少なくなっていて夏の舗道をすこし歩いた

家父長制に本気の人は祖父母の代で終わって それからというもの

ダイソーのテニスボールを腰にあててぐりぐりしていると気持ちいい

埼玉県 わたしに選挙権のない選挙の人のポスターの顔

たがいちがいのエスカレーターを見ながらわたしが飲んでいたドデカミン

ラーメンがほんとうに好きな人の話をわたしは手品のように聞いていた

その場所には電池の自販機があって思いだしたり忘れたりする

プリゴジンは自爆したことになっている そのころ咲いていた夏の花

街灯の光でいくつかできている影のひとつをわたしと思う

どこか遠くでわたしのメールアドレスが流出しているのを感じてる



dream/gasoline  三上春海



   6月

支配とはなにかをささえくばること いろいろな理由がきえてゆく

ラピスラズリの夜のしじまの夏至の夜をラピスラズリのようにあるいた

あじさいの咲く公園と わたしたちは あじさいの咲かない公園で

どんなに歩いてもたどりつけない駅のように ここは駅 とわたしはいった

   7月

この夏がながれだしたらどうしようせきとめる土嚢をどうしよう

「ほしのゆめ」という品種がかつてありだんだんきえてゆく東京都

丹頂鶴がわたしにむかいくる夜をみるという妻はこのごろ夢に

(ガソリンでひとを焼くのはやめなさい)(なぜ?)(といわれて7月はおわる)

   8月

電話機を空にかかげているひとがみょうにたくさんいる夏休み

犬のこころは犬自身にもわからない black / yellow / magenta / cyan

夏の日の手刀でひとをかきわけてあるいていった弱冷房車

ゆめでわたしは死んでしまったゆめをみたあとどれくらいねむってていい

   9月

カビゴンのホットアイマスクをつけてかいでいるラベンダーの芳香

わかものの可能性つみとりながらこどもたちがちいさくなってゆく

ひがくれてゆくほそみちをぬけるとき交通事故という危険性

月光とその他のひかりがまざりあい人類のいさかいの寒い夜

   10月

わたしたちは932番で、いま、930番が呼ばれた。

鳩がもし鳩でなくなり人がもし人でなくなるなら花の園

この世のものともあの世のものともおもえないポイント10倍のうたがきこえる

公園というにはなにもないけれど駐車場ではない 五年間




 ネットプリントでの印刷は「2023/11/18 23:59まで」可能です。


 紙版をお求めのかたはこちらもよろしくお願いします。